QR-71J

01版 2013.06.15    
00版 2012.08.01    
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 高1中2の真空管受信機です。今回は、高校の頃本格的通信型受信機として初めて手にした思い出深い『 9R−42J 』を基本にしています。外観、製作過程等、60年代のノスタルジーを多少なりとも感じて頂ければと思います。

 

方針


 ○ 外観は50〜60年代通信機の雰囲気。
 ○ 受信信号は、RF入力からスピーカ出力まで真空管回路を通す。
 ○ 受信信号を除く各種制御信号の生成、処理等は、最近の技術を活用する。
 ○ SSB復調は真空管によるプロダクト検波の他、9R-42Jと同様、AM検波回路へのBFO注入方式も可とする。

外観・内観


 ケースはLEADのAS−1を使用し、両側の取っ手は外しています。AS-1のフロントパネルは鉄製で加工が大変なため、別途購入した板厚1.0mmのアルミ板を加工しています。塗料はタミヤのガンメタルTS-38です。
 写真では見えませんが、左上部角の皺は、調整中、机の上から落としてクシャクシャにしてしまった時の修復跡です。塗装前で助かりました。
 フロントパネル下部のスイッチ、ボリウム等は、現物の9R-42Jを実測し、同一配置しています。
 前面

フロントパネル
 9R-42Jの特徴的なデザインであるダイヤルは、二つの扇を横に倒した様なシンメトリー配置となっていますが、今回は、残念ながらメインダイヤル一つで縦型になってしまいました。ダイヤルにはジャンクVTVMから外した大型メータを使用しています。
 ダイヤルエスカッション(ボックス?)は9R−42Jでは角にRのついた箱型ですが、自作困難のため、100円ショップのポリ容器の蓋を利用しました。写真で凸凹に見えるのは、塗料を塗り過ぎたことによる色ムラです。
 左のSメータ下部右側のつまみはDDS VFOの周波数ステップ設定スイッチです。
 左右の大型つまみは、9R-42Jではメインダイヤルとスプレッドダイヤル用ですが、DDS VFO採用のため周波数可変とRF部同調が独立となり、左の大型つまみがRF同調、右が周波数可変用メインダイヤルつまみとなっています。
 リアパネルと内部を覗いた写真を以下に示します。上蓋を開けて内部を覗く時の「あのワクワク感」を出せる様、配置を考慮しました。
 背面
上面 
a)その1
上面
a)その2
 リアパネル 上から内部を覗く 


表示操作


フロントパネルレイアウト
フロントパネル図

 9R-42Jでは「ANL」SWおよび「BFO/MVC/AVC」SWが、ここでは「BFO」SWおよび「MODE SEL」SWとなります。BFO ON時は、強制的にAM検波回路へ切り替え、BFO信号をAM検波部へ注入します。

 ダイヤル表示にはアナログメータを使用しています。7MHzバンドを受信中のアナログメータとLCDの表示を下に示します。LCDはVFO部と仮接続し、比較のために周波数表示しています。アナログメータの針の指示がLCD表示の周波数値と良く合っています。

 ダイヤル表示
7060kHz
   ダイヤル表示
7140kHz
アナログメータによるダイヤル表示(上部のLCDは比較用)



ブロックダイヤ


 ブロックダイヤグラムを下図に示します。真空管構成は、6BD6、6EA8,6BD6,6BD6,6AV6,6AR5です。

ブロックダイヤ
ブロックダイヤグラム


 RF部のMIX部は低雑音化のため6EA8を使用しました。

 AF部のAM検波(AM DET)は6AV6の2極部、プロダクト検波(PRO DET)は12AU7です。

 LO部は、市販DDS VFOとこれを制御するVFO CONTから成ります。VFO CONTは前面パネル操作部スイッチ情報を取り込み、DDS VFOを制御します。DDS VFOは、VFO CONTからの制御によりMIX部へローカル信号を供給します。

 DIAL CONT部(DDM-MCP)は、VFO CONTからのBAND情報の取り込みと、VFO信号入力による受信周波数表示を行います。これらの処理にはPIC16F628Aを使用し、ファームはCにより作成しました。

回路


 回路図(PDF)を以下に示します。
 
    全体回路
      QR−71J
    各部回路
      RF:高周波増幅部、周波数混合部
      IF:中間周波増幅部
      AF:AM検波部、プロダクト検波部、電圧増幅部、電力増幅部
      PS:電源部
      LO部:ローカル周波数制御部
        VFO CONT:VFO制御部
        VFO:市販DDS VFO
        VFO AMP:VFO出力増幅部
      DIAL CONT(DDM−MCP):ダイヤル制御部
      BFO:BFO発振部

「BFO ON」時の切替え

 「BFO ON/OFF」SWにより、以下の切り替えを行います。
  ・「BFO ON」
   「MODE SEL」SWによる受信モードに優先して強制的にAMモードとし、BFO出力をAM検波入力部
   へ注入します。
  ・「BFO OFF]
   「MODE SEL」SWによる受信モードへ切り戻ります。

 切替回路の説明を行うために切替回路部分を簡略化して下図に示します。

  ・S2は「BFO ON/OFF」 SW、S3は「MODE SEL」SWです。
  ・RL1は4トランスファー接点(rl1-1〜rl1-4)で、「BFO ON」時のみONします。
  ・以下、各モードで動作中に「BFO ON」操作を行った時の動作について説明します。

    ・「AM」モード動作中に「BFO ON」時
      @S2-2によりAGC OFF、RL1 ON
      Arl1-1を通してBFO発振部へ地気を送出(これにより、BFO強制ON)
      Brl1-2により、BFO出力信号をAM検波用6AU6の2極部へ注入

    ・「CW」/「SSB」モード動作中に「BFO ON」時
      ・前記動作@〜Bに加えて、「CW」/「SSB」モード(プロダクト検波)から「AM」モードへ
       強制的に切替える動作が加わります。これを、rl1-3とrl1-4で実現しています。


BFO切換
モード選択およびBFO ON/OFF切替回路
 

LO部

 VFO CONTは秋月の「AKI PIC−ベーシック開発キット」を使用し、マザーボードへ回路を追加しました。ファームはキット付属の「PICBASIC」で作成しています。秋月の開発キットおよびPICBASICは共に販売終了となってしまいました。VFOは貴田電子設計の「KEM−DDS−VFO−MC50」を使用しています。

 自作BASICソースについては、市販ボード部分について著作権に触れる可能性がありますので、掲載しないことにしました。フローチャートの掲載等、他の方法を検討します。

DIAL CONT部

 詳細は「DDM-MCP」および関連する「DDMーR2R」を参照願います。


問題・対策


 

MIX部

 MIX部3極部グリッドのトラップは455kHz用です。このトラップは、以下の問題を対処するためのものです。

・現象・・・電源ONから約1時間経過後、ジャーという音が聞こえる。
・調査
   ・PIC−BASICモジュール(PIC16F877)を動作させると、VFO AMP出力で455kHzより
    若干低い周波数の成分が観測される。
   ・PIC16F877付近をブロアで温度を上げるに従い、この成分の周波数が高い方へ変化。
   ・変化の途中、455kHzIFTの通過帯域内へ入ると、ジャーという音が聞こえる。
・原因・・・PIC−BASICモジュールから発生する455kHzノイズ成分がIF系へ混入。(混入経路は不明)
・対策・・・以下の対策によりジャー音発生を完全に抑えることができた。
   ・MIXの入力部へ455kHzトラップ挿入。

 

AF部

 AM検波回路へプロダクト検波回路を単純に追加したことで問題が発生しました。

・現象・・・AMモードとCW/SSBモードで極端な感度差がある。
・調査・・・AMモードでIFTの同調調整を行うとCW/SSBモードで感度低下。逆に、CW/SSBモードで調整
       を行うとAMモードで感度低下する。
・原因・・・AMモード時の平滑用コンデンサC1(A点)がCW/SSBモードではIFT2次側へパラ接続となり、
       同調ずれを起こす。
・対策・・・コンデンサC1を下図A点からB点へ変更する。

 C1の働きを分かり易くするため下図に示します。簡略化のため、図中、スイッチS3およびリレー接点rl1は省いています。右図の「SSBモード」に対策のC1変更箇所も示しました。

C1の働き


その他 -改善-


・現象 : シャーという真空管特有の雑音の高域成分が耳障り。

・対策 : 6AV6増幅の前段にLPFを設けるのが良いが、今回は簡易対処としてVR1の両端へ0.01μFを仮付け。



製作


RF,IF、AFの実装

 RF,IF、AFは、一つのプリント板上に実装・配線し、シャーシ上にスペーサで固定しています。プリント板には両面生基板を使用しています。上部は全面アース、下部は銅箔を削ってランドを作り、部品を実装、配線しています。
 上部はシャーシの雰囲気を出すためアルミ箔を貼り付け、縁はLアングル板をねじ止めしています。
配線 
真空管部(RF,IF,AF)
 真空管ボード
アルミ箔で化粧
 LO部、DP部のDDS CONT、DDS VFO、VFO AMP、DIAL CONTはそれぞれ個別のプリント板です。これらは、真空管回路のRF部、AF部への回路ノイズ影響を少なくするため、一つのアルミケースへ収容し、シャーシ下部に収容しています。
 PSはトランスとアルミ電解コンをシャーシ上の前から見て左の奥へ実装しています。この配置もケース蓋を開けて覗いた時の雰囲気を考慮して決めています。
 LO部
LO部
 裏面
PS部シャーシ上配置


製作過程

   製作過程その1(PDF:599kB) 2008.06.10〜2008.08.07
   製作過程その2(PDF:702kB) 2008.08.07〜2008.09.29
   製作過程その3(PDF:441kB) 2008.10.01〜2008.10.21


使用感


 真空管式のため、電源を入れてからしばらくして音が聞こえるまでの待ち時間がなんとも云えません。コーヒーを飲みながら、ダイヤルつまみをゆっくり廻してSSBやCW音をチューニングする。正に至福の時です。AFの高域をカットしたり、プロダクト検波のBFO周波数を調整して自分好みの音にしているためか、耳に優しくまろやかに聞こえます。楽しみにしていたBFO注入式のSSB、CWは、音についてはプロダクト検波と遜色なく、又、つまみを廻しての復調は非常に楽にできました。9R-42Jによる復調の大変さと比べると嘘のようです。回路がおかしいのかとプロダクト検波用の12AU7を抜いて確認した程です。但し、AGCをカットしていることもあり、強いレベルの信号に対しては流石にプロダクト検波に軍配が上がります。
 感度は7MHzにおいて最小10dBμ(EMF)入力のキャリアをスピーカで聞くことができます。選択度はIFT(T-21)だけでは不足で、7Mではきついですが、それでも7.1M以上なら空いているためそれほど気にはなりません。VFOにDDSを採用していますので、安定度はまったく問題ありません。内部雑音については、6EA8採用の効果を比較できる環境がないため分かりませんでした。
 ダイヤルつまみは軽すぎてつまらない感じがします。これが、TS−520等の減速ギア付きVFOと同様の感触なら最高なのですが。ロータリーエンコーダ採用時の感触改善が今後の課題です。



 初めて製作した通信型受信機のためか、出来上がりに非常に満足しています。
 デジタル部設計構想から部品集め、試作・実験、開発言語や設計ツール操作習得等に時間がかかり、製作途中で還暦を過ぎてしまいました。
 今後は半導体で製作する予定ですが、オーディオ部については真空管特有の柔らかい音にしたいので、まだ未経験のNFBや三結を6BM8で実験してみたいものです。